野菜や畑の個性を尊重したい~ひきこもり経験から農家としての挑戦へ「あきちゃんのやさい」を取材しました

2023.06.05インタビューみそのnews

令和元年「世界かんがい施設遺産」に登録された見沼代用水が流れる見沼田んぼ。江戸時代、新田開発に力を入れたことから「米将軍」とも呼ばれた八代将軍徳川吉宗により開発が進められ、現在も都市近郊に農地が広がっています。この貴重な歴史的資源でもある見沼田んぼ界隈に、「里山の畑」「かぶきの畑」「そらの畑」などそれぞれ名前が付けられた、あきちゃんこと吉岡章子さんの畑は点在しています。

かつてひきこもりだったというご自身と重ね、畑や野菜が持つ「個性や多様性を大切にする畑づくり」を目指すあきちゃん。農家として経営を始め3年目となった今年、「さいたまオーガニック野菜の見沼自然農場『あきちゃんのやさい』」では、参加者一人ひとりに合わせたプランを組み立て、堆肥場や畑、ビニールハウスの見学などができる「大人の社会科見学農場ツアー」をスタートさせました。

自分がそうであったように、落ち込んだり弱ったりした時に、いつでも来てもらえるウェルカムな場所に畑をしていきたい、というあきちゃんに、こだわりの畑づくりやツアー企画に込めた想いを伺いました。


年間100種、季節の野菜を「自然のまま」に

あきちゃんの畑では、遺伝子組換え技術や化学合成された肥料、農薬を使用せず、環境負荷を可能な限り低減した有機農法と、農薬を用いず永続的な農作物の収穫を目指す自然栽培の二刀流で、トマト、ネギ、レタスなどを中心に約100種類の野菜を育てています。除草剤なども一切使わず、限りなくあるがままの自然を生かし、植物も虫も畑の周りにいる動物も、みんなが共存・共生できる畑づくりを心がけています。

畑には一つひとつ名前を付け、まごころをこめて、野菜だけでなく雑草も含め土を育て、循環型農業といのちの巡りを大切にしています。使用している堆肥も有機肥料も全て手仕込みで育てています。

ワインドレスという品種のふわっふわのリーフレタス。この畑で採れたレタスは「甘い」と言われるそう。

「できない」衝撃をきっかけに農家の道へ

ひきこもりだった私が最初に野菜作りを始めたのは家庭菜園でした。昔から割と器用な方ではあったので、野菜を育てるのもそんなに難しくないだろうと思っていたら、びっくりするくらい「できなかった」。驚きましたし、なんだか悔しかったです。

その後「美園人」でもインタビューされている「風の谷農場」の三宅将喜さんを知り、弟子入りを決めました。三宅師匠とご家族に支えられ、1年間の体験から始まり、研修生、弟子と徐々にステップアップ(?)して、沢山のことを学びました。

組織に属すことや働くことが過去の経験から怖くてできなかった自分にとっては、働く場所を自分で作るしかないと考え、30歳を迎える頃、農家になりたいと師匠に伝えたところ、「無理だと思う」と言われました。当時は反発もありましたが、生業として農業に携わるようになり、今では師匠の言葉の重みと有難さをひしひしと感じます。

その後、「ないとう農園」・「こばと農園」・「美園ファーマーズ倶楽部」も活動している「浅子ファーム」の3軒での研修を経て、農家として経営を始めて今年で3年目になりました。現在は、さいたま市近郊の有機農家が集まる「さいたま有機都市計画」のメンバーとしても活動しています。

「カレーに負けない」と言われるあきちゃんのニンジン。「細目なのは『ほそいさん』と呼んでいます。」

何よりも、個性を生かし尊重したい

20代はほとんどひきこもっていて働くことができませんでした。
「何で生きているのだろう」と悩んだ時に、ただひたすら種を残そうと生きている畑の作物や雑草を見て、救われたんです。こうした経験から、一人ひとりの人間と同じように、野菜や畑が持つそれぞれの個性を尊重し、多様性を生かした自然のままの農業を志すようになりました。

例えば、今日トマトの定植(ていしょく)※1をしているこの「里山の畑」は、栗の木の裏手の竹林から風が通る気持ちの良い環境です。ただ一口にあるがままの自然と言っても、雑草を伸び放題にしたり、自分のやりたいようにしたりするわけではもちろんありません。お隣さんの畑とは地続きですから、周囲の環境も含め、いかに共存・共生していくか、全体を俯瞰するとともに、個々の野菜の個性に合わせて育てています。ちなみにトマトはアンデス原産なので、本来水はけのよい高地の作物なんですよ。だから今回はマルチ※2を使わずに育てます。

農業を通して、畑からも人からも教わることがとても多く、座学で吸収する知識に、毎日の観察、経験から蓄積される感覚知といったものを組み合わせて、試行錯誤しています。それぞれの個性を生かし、思わず「おいしいっ」と唸る野菜を作るのが目標です。

※1 苗床などで育てた苗を、畑などの育成場所に植え替える作業。
※2 地温の調節・雑草の抑制・乾燥防止などのために畑の畝の表面に被せるシート。マルチシート。色や素材に様ざまなものがある。よく見かけるのは黒色マルチなので、見付けたら「あ、マルチだ」と言ってみましょう。

必要とする誰かを、迎えられるように

落ち込むことや辛いことがあったり、弱ったりしたときに、自分がそうであったように、必要としている誰かにとって、いつでも来られるウェルカムな場所に畑をしていけたらとの想いで、まずは畑を知ってもらおうと考えたのが、「大人の社会科見学農場ツアー」です。

全部合わせると小学校の体育館5~6つほどの広さになる畑や、堆肥場、ビニールハウスの見学をベースに、参加される方の興味や体力などに合わせ、畑仕事なども色々と組み合わせた内容で提案しています。

じっくりお話ができたら、という想いがあるため、現在のところ参加者は大人に限定しています。自然を尊重し野菜や畑の個性を生かす農業に触れていただきながら、農業の実際のところや、有機農法ならではの苦労、地域とのつながりなどなど、語らうことができたらと考えています。子どもとはすぐに仲良くなれるのでつい自分も一緒に遊んでしまって、大人を置いてきぼりにしてしまうというのも実はあるんですけど。

人数も現在のところは4~5名までに絞っています。お一人様なら軽トラで駅まで迎えに行きますよ。特に時期が決まっている企画ではなく、お申し込みいただいた方と適宜予定を合わせて開催しています。

ゆくゆくは、竹を切り出して東屋も作りたいです。畑の中でヨガができたりするような、竹小屋があるといいなと思って。気軽に集まれる、訪れることのできる場所にしていきたいです。

凛と立つニンニクの赤ちゃん。すくすく育っています。

春菊の黄色い花が風に揺れる畑で、「毎日壁倒立していたらこんなになりました!」と立派な力こぶを披露してくれたあきちゃん。
トマトの苗に土を被せ、愛情深い眼差しでぽんぽんと触れる様子は、赤ちゃんを寝かしつける仕草のようでした。「特に、種から育てると本当に子どものようで、ついつい苗を『この子』って呼んでしまいます。種を選ぶときには、品種の名前も重視します。どんな子に育つだろう、などいろいろと考えます。」というあきちゃんに育てられ、幸せそうな野菜たち。

個性輝く「あきちゃんのやさい」とあきちゃんに会いに、ぜひ畑に足を運んでみてください!

■さいたまオーガニック野菜の見沼自然農場「あきちゃんのやさい」
公式サイト:https://akinncho1105.wixsite.com/akiyasai
⇨「大人の社会科見学農場ツアー」についてはこちら
https://akinncho1105.wixsite.com/akiyasai

■インタビュー:2023年5月27日実施

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