~美園が100年後も美しくあるために~スマートホーム見学会からひも解く「Misono2050プロジェクト」松浦正浩明治大学教授インタビュー

2022.07.12インタビューみそのnews暮らす

みなさん、「Misono2050プロジェクト」って聞いたことありますか。

明治大学公共政策大学院松浦正浩研究室を中心に進められているこのプロジェクトは、浦和美園駅周辺地区が2050年になっても持続可能(サステナブル)であり続けるようにするため、地区内外で未来を先取りする活動をしているさまざまなフロントランナーとともに進められているものです。

このプロジェクトでは、オランダを中心に欧州で広まっている「トランジション・マネジメント」という考え方を用い、「未来の持続可能なあたりまえ」を先取りして実践することで、持続可能な社会への転換を加速させます。

今回は、この「Misono2050プロジェクト」の一環で実施された、浦和美園駅の西口徒歩すぐに位置する「スマートホーム・コミュニティ」見学会にお邪魔し、プロジェクトの中心人物である松浦正浩教授から、プロジェクトに込める思いや取組みについてお話を伺いました。


「Misono2050プロジェクト」の中心人物である松浦正浩明治大学教授。

-本日はよろしくお願いします。
松浦正浩教授(以下、松浦):こちらこそ、よろしくお願いします。

-先生は美園にはよくいらっしゃるのですか。
松浦:実は、UDCMiに掲示されている航空写真からは外れてしまいますが、私自身もこの地区の近くに住んでいます。かれこれ15年ほどになるでしょうか。

-大変失礼いたしました。
気を取り直しまして、まずは「Misono2050プロジェクト」の取組みについて教えていただけますか。
松浦:浦和美園駅の周辺地区が、2050年に持続可能であるために、いまから「先取り」できる活動を始めて、地区のみなさんに拡大波及させようとする実験です。2017年に第1回のワークショップ会合を開催して、「先取り」すべき活動のリストをつくりました。その後も、オランダから専門家を招いたワークショップ会合などを開催して、持続可能性を高める活動を検討してきました。その後、コロナ禍でしばらく停滞してしまいましたが、2021年度に国の科学研究費助成を得られたので、改めて、より実践的な「活動」のフェーズへと進むところです。

-これから具体的な「活動」に取り組んでいく、ということですね。
そもそも、このプロジェクトの構想はどのようにして生まれたのでしょうか。
松浦:浦和美園駅周辺地区の2050年の人口を推計したところ、急激な高齢化に直面することがわかりました。実は、昭和の時代に開発された大規模な住宅地(ニュータウン)の多くで、すでに高齢化問題が深刻化しています。浦和美園で、2050年以降にまったく同じ問題に直面しないようにするためにも、いまのうちから持続可能な人口構造への転換を促進しておく必要性を認識しました。また、地球温暖化に伴う気候変動や、社会経済システムの変化(たとえばコロナ禍によるテレワークの一般化)など、この地区を取り囲むさまざまなトレンドへの対応を先取りして、いまのうちから持続可能な都市へと転換しておく必要があります。

-プロジェクトには、どのような方が参加していますか。
松浦:これまでのイベントでは、浦和美園駅周辺地区内外のさまざまな方々にご参加いただいております。みなさん、浦和美園駅周辺地区になにかしらの問題意識を持たれているので、このプロジェクトを通じて、持続可能性という観点から、その問題意識を行動へと動かすきっかけになればと思います。また、住民意識の変化を記録するため、アンケートモニターとして、120名の住民のみなさまにご協力いただいております。

-大勢の方が関わっていらっしゃるのですね!
今回の「スマートホーム・コミュニティ」見学会を企画した理由を教えていただけますか。
松浦:まだしばらく、浦和美園駅周辺地区でも戸建住宅の建築が続くはずです。この地区の当面の持続可能性(サステナビリティ)を高めるためには、新たに建築される戸建て住宅が、スマートホームのようにエネルギー・環境性能の高いものとなる必要があります。ですから、スマートホームのメリットについて知っていただくことで、これから戸建住宅を購入する可能性がある人々が、エネルギー・環境性能の高い住宅を選択するように誘導する目的で実施しました。

最新の航空写真を見ながらまちのこれからを考えると、話に花が咲きます。
地中に埋設しているため、コミュニティ内には電柱がありません。

-よく「スマートホーム」と耳にはしますが、そもそもスマートホームは何がスゴイのでしょうか。
松浦:最近建てられたスマートホームは、屋根上の太陽光発電で電気をつくるだけでなく、昼間につくった電気を電池や電気自動車にためておいて、夜間に使うこともできます。また、断熱・気密性能が高いので、真夏でも比較的少ないエアコンの使用で室内を涼しく保てますし、真冬も同様に少ないエネルギーで室内を暖かく保てます。住宅でのエネルギー使用量は、暖房と給湯の比率が高い(意外と冷房は少ない)ので、暖房に使うエネルギーの節約は、省エネ・脱炭素に貢献します。これから世界中で一気に進む脱炭素の流れを先取りする、持続可能性の高い住宅がスマートホームなのです。

-そんな先進的なスマートホームが集まっているエリアが、美園の「スマートホーム・コミュニティ」なのですね。美園のスマートホーム・コミュニティの、他との差別化ポイントはありますか。
松浦:第3期の整備では50戸以上の戸建て住宅が建っています。太陽光発電設備が屋根上に載っている住宅は多いのですが、発電した電力は、東京電力などに売ったり、自宅の中で消費したりするのが一般的です。しかし、このスマートホームコミュニティ(第3期)の太陽光発電設備はLooop社の所有で、つくられた電力はいったん、コミュニティ内で集約され、各家庭に再配分されます。余った電力は、需要の大きい夜間などのために、コミュニティ内の蓄電池に貯められます。

コミュニティ内に設置されたEVのシェアリングスポット。電気は同じ蓄電池から供給しています。
同じエリアには自転車のシェアリングスポットも。

-コミュニティ内でつくられた電力を「シェア」している、という感覚ですね。
ちなみに、プロジェクトで用いている「トランジション・マネジメント」とはどういうものですか。
松浦:持続可能な未来の「あたりまえ」を先取りしている活動・人に着目し、そのような方々がいわゆるインフルエンサーとなって、より多くの人々の行動を未来の「あたりまえ」へと誘導することで、持続可能な未来の到来を早めようとするプロセスです。オランダで20年程度、さまざまな実践が行われています。

たとえば2050年には、脱炭素といって、化石燃料をあまり使わない地球に変わっているはずですが、いまのうちから、脱炭素に合った家を建てたり、クルマを買ったり、街を設計したりしておけば、化石燃料の値段が急に高くなったりしても、慌てることはありません。

また、今後30年間に70%の確率で首都直下地震が起きると言われていますが、いまのうちから準備しておかないと、都内へ通勤する人たちの帰宅困難や、生活必需品の入手などで混乱が起き、まちが持続できなくなってしまう危険があります。

このように、2050年まで(そしてその先も)持続可能なまちを作るためには、いまのうちから準備しておかないといけません。またその準備は、国・県・市などの行政がやるべきこともありますが、むしろこの地区に住んでいる人、働いている人、一人ひとりが先取りして、そして自分たちから変わっていかないと、このまちを本当に持続可能にしていくことはできません。

オランダをはじめとするヨーロッパの都市では、持続可能なまちづくりのために「トランジション」という考え方が広まりつつあります。数十年後に持続可能で競争力のある都市を実現するためには、これまでとは違う、未来の働き方・暮らし方をいち早く先取りしていく必要があります。

自転車や公共交通機関をもっと利用する生活、環境負荷の少ない食材をもっと取り入れた生活…どうしたら、本当に持続可能な都市へとみんなで組み替えられるのか。そのヒントが「トランジション」にあります。

-プロジェクトを進める中で、ご苦労なさった・されている点はありますか。
松浦:浦和美園駅周辺地区のみなさんに幅広く情報をお伝えして、関心を持っていただくことが、最大の課題だと思います。ソーシャルメディアやLINEなどが普及して、みなさんが普段ご覧になっている情報源がものすごく多様化しているので、地区のみなさんにアウトリーチすることが日々、難しくなってきています。アンケートモニターの募集でチラシを配布させていただきましたが、いまのところそれが、一番効果があったように思います。しかし紙のチラシを何度も配布するのはご迷惑だと思いますので、よりよい方法を模索し続けるしかなさそうです。

-まずは知ってもらうことが重要、ということですね。翻って、喜びを感じる点は。
松浦:浦和美園駅周辺地区の持続可能性を高める必要性をお話すると、多くのみなさんに納得・共感していただけることです。何かしないといけない、という意識を多くのみなさんが持っているようで、ポテンシャルはあるはずです。しかしその問題意識を、実際の行動変容へとつなげないことには、持続可能性は高まりません。共感で終わりにせず、現実を変えるところまでもっていくのが、これからの挑戦です。

地域にお住まいのみなさんと海外から視察に来た方々との交流会なども開催。率直な意見が飛び交います。
毎回白熱するワークショップや意見交換会は、このまちの「プレーヤー」が集まる大切な情報交換の場でもあります。

-これからの展望や、先生が思い描く2050年、2100年のこの地域のイメージ、将来像を教えてください。
松浦:2050年までに、人口、気候変動/災害、交通、経済の4つの視点で、持続可能性を高める必要がありそうです。30年後、いまの子どもたちが、いまの親世代くらいの年齢になったとき、浦和美園駅周辺地区や近隣に新居を構えてくれれば理想でしょう。また、2050年には震災を無事乗り越え、安心して暮らせる街、という実績ができていれば理想でしょう。交通については、EV化は進むでしょうが、EVになっても渋滞は起きるので、それ以上に、自転車や徒歩での移動が増えている必要があります。経済の側面では、いわゆるサーキュラーエコノミーの実現で、浦和美園駅周辺地区を中心とした経済圏、物質循環圏が形成されていれば理想です。
2100年はさすがに全く想像できません…。

-ありがとうございます。今後、美園で取組んでみたいことはありますか。
松浦:Misono2050の一環で、EVや自転車利用への転換促進のイベントを考えています。といっても、まずはEVに乗っている人が集まって、緩いオフ会のようなものから始められればよいかな、と思っています。また現在、Misono2050作戦会議といって、いろいろな方々と、活動のアイディアを議論しています。そこででてきたアイディアを、みなさんと一緒に実現していくことが、次のチャレンジです。


浦和美園駅周辺地区が、2050年になっても持続可能(サステナブル)であり続けるように、さまざまなフロントランナーとともに進められている「Misono2050プロジェクト」の取組み、いかがでしたか。

今の子どもたちの、そのまた子どもたちの世代へ、持続可能(サステナブル)な地域のバトンを渡すにはどうすればよいか。まさにわたしたち一人ひとりが行動していく必要があるのではないでしょうか。

まずは第一歩、Misono2050作戦会議やオフ会に参加してみたい!興味がある・・・という方、「Misono2050」WEBサイトからぜひご連絡ください。

これからのよりよき暮らし、持続可能(サステナブル)なまちづくりに向け、一緒に取り組んでいきましょう!

●Misono2050のホームページはこちら
●明治大学公共政策大学院松浦正浩教授の紹介ページはこちら

UDCMi
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私が紹介しました!
「アーバンデザインセンターみその(略称:UDCMi)」は、さいたま市美園地区にて、これからの美園をかたちづくり、「公民+学」が連携し地域課題解決に取り組むまちづくり拠点施設として、2015年10月に浦和美園駅西口に開設されました。 UDCMiは、まちづくりを推進する美園タウンマネジメント協会の取組みの一環として開設・運営されており、その運営事務局を「一般社団法人美園タウンマネジメント」が担っています。
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