笑顔でまちを育てる“伝ちゃんち” の農園 ~鈴木殖産園 鈴木 伝一さん~

2017.06.30インタビュー食べる

鈴木殖産園の十七代目として、代々続く農園の営みを通して、垣根のない交流の場を育んでいる鈴木伝一さん。“心が豊かになるような”食生活を提案し、「農業」という既成概念を超えた多彩な活動を展開しています。食を通じ、笑顔を広げ、まちをつくる、その独自の営みについて伺いました。

Q:食育に力をいれていらっしゃると伺いました。
ある日、直売所でお客さんから「子どもたちに農作業を体験させたい」と提案され、じゃがいも掘りのイベントを開催するようになりました。普段は親が働いて買った野菜を子どもたちが食べているけれど、この日は、子どもたちがじゃがいもを掘って、感謝の気持ちを込めて親に渡します。幼い頃から本物の味を体で覚えておけば、それが“故郷の味” になり、「ここで暮らそう、いつか戻ってこよう」と思うかもしれないですよね。土地との結びつきが強まり、結果的に笑顔があふれるまちづくりにもつながると考えています。

Q:大学生の実習も受け入れていらっしゃるのですね。
浦和で生まれた「紅赤」というさつまいもがあるんです。戦後、子どもたちに甘い物を食べさせてあげたいと開発されたもので、現在、さいたま市がこの芋を使った食品を作り、ブランド化を目指しています。その一環として、うちも「国際学院埼玉短期大学」と連携し、お菓子を作るようになりました。その後も縁あって、今では1年生の実習の受け入れも行っています。春から夏にかけて、その時期の農作物の種まきや収穫をしてもらっています。心が豊かになる食生活と、「困ったときはうちにおいで」と地元の人を守れるような農家のスタイルを提案していきたいんです。

Q:農業に携わるうえで大切にされていることはありますか?
昔、父親の友人が、うちの長芋を食べると体の調子がよいと、よく買いに来てくれていました。その長芋は、漢方薬の原料として昔から使われていたもので、ある日、噂を聞いた漢方メーカーから全部買い取りたいと提案されました。しかし、父は「今買ってくれているお客さんの笑顔に会えなくなるから」と断ってしまいました。1年後も同じ笑顔に会える。これは、うちが何より大切にしていることです。

近くにおいしい果物を作る若い農家がいるのですが、ご近所さんたちに相場よりも安価で売っています。「おやつのように食べてほしいから高値はつけられない。家族や友達と分け合って、今度一緒に来てくれればそれでいい」と。お金にこだわらず次につなぎ、また笑顔に会うためにできるとこを尽くす。すごいコンセプトでしょう。

Q:最後にメッセージをお願いします。
うちにはない農作物が欲しいとお客さんが言ったら、知り合いの農園を紹介しています。人の輪と助け合いの社会が広がれば、ご先祖様に一番の恩返しになり、子どもや孫たちにも豊かさを残せるはずです。祖父は伝左衛門、父は伝之輔、そして私は伝一。「伝ちゃんち、どこ?」と聞けば、この地域のどんな世代の人も教えてくれます。みんなが笑顔を見せに来てくれたら私も楽しい。だから名刺に書いてあるんです、“仲良くしてください” と。

美園人編集部
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